2012年9月30日日曜日

最後の砦

私の頬にある傷   ほとんど目立たなくなったけど


それは生後すぐ   赤ん坊の時に   自ら引っ掻いたものだった


その病院は   赤ちゃんの袖が手まで隠れておらず


赤ちゃんは泣いている時に   自分の爪で   頬を傷つけてしまっていた


私はそれだけ元気がよかったのかもしれない



生まれてすぐ   私の爪が伸びていることに気づいた母は


看護婦さんに   爪を切るよう頼んでおいた


だけど当時は   ベット数が足りないほど   子供が一杯生まれていたせいか


退院するとき   なぜか婦長さんがわざわざ私を抱いて


看護婦さん総出で   母の退院を祝ってくれたのは


渡された娘の頬に   血が滲んでいたからだ


娘の顔に傷を付けられた母は


驚いて叫んだらしいが   後の祭りだった





ちゃんと言っておいたのに   わざわざお願いしたのに


後ろめたいからあの時   婦長が出てきたんだ



母はそのことを想い出すたびに   忌々しく話していた






昔のことだからと想っていたけど


調べてみると   現在でも同じことが繰り返されているらしい


赤ちゃんが泣き叫んだりするときに   誤って顔を傷つけてしまうから


ベビー服の袖を少し長くすれば済むし


赤ちゃん用手袋もあるのに


それを用意していても使わなかったりして


子供の顔が傷だらけなのに   何もしなかった医者に対して


憤っている母親や


幼い娘の顔の傷を見るたびに   悔やんでいる母親の声が   聞こえる


赤ちゃんの頃の傷は治りやすいというけれど


肌質なんて人それぞれ   


新生児の柔らかい肌をひっかいた


鋭い爪痕は   皮膚形成の土台となる   真皮を深く傷つけたようなもので


消えないで残ってしまう人もいる



未だに同じことが起きているのに   病院が


全く無頓着でいるのは


赤ちゃんの傷は治ると想っているのかもしれない


でも


本当は   医師や看護婦が   


印を付けているんじゃないの?   




何人もの赤ん坊を見ている現場で


何が起こるか   大抵のことは予測できるはず


なのに今でも   同じことが起きていて   現場が改善されないのは


これだけ少子化が進んだ時代に   信じられない


子供のころの顔の傷が   一生の傷にならないよう


どれだけ親が気にしているか


まさか知らないはずはない


高い費用を払って入院してくる   母親の赤ん坊には


きっと細心の注意を払うだろう




赤ちゃんが自分の爪で自分を引っ掻いてしまうのは   よくあること


そしてその傷が   人によって残ってしまうのも   昔からよくあること


ならば   それをずっと放置しているのはなぜ?





病院の中で


母は何かを感じて   察知して


娘の爪を切るように   わざわざ指示したのかもしれない


印を付けるなと   命令したのかもしれない


しかしそれは無視された




だから婦長が出てきて


印を付けられた私を直接   母親に手渡した


看護婦は   無意識に   婦長の命令に従っただけだった




大人になって   同じ傷を持つ人に   二人ほど会ったことがある


普段は自分の傷など気にしない


だけど   他人の傷を見たとき   そこに


潜在意識に刻まれた   同じ印を見た気がした





印は印を呼ぶ   新しい印は   すでにある印をめがけて


付けられる



病院で印が付けられたのは


その魂に   すでに生まれる前から


ずっと前の生から   印を付けられて


それを目印に   生まれたとき


新たに印が付けられたに過ぎない


それがあるから   病院は   


獲物に印を付けることが出来る




けれど今度は   付けられた印が   


彼らのやったことの   証となる





病院や宗教が力を持ち始めたのは


人の生と死を   管理し始めたから


宗教の力が後退し始めた現代では


病院が   絶大な権力を振るうようになった


キリスト教など   宗教が医療に携わっていたり


もともと宗教と医療は


人の生と死を扱う分野で   密接な繋がりがあるから


宗教の力が後退しても


医療がその代りとなって


結局人々は   それを信じるように   強制される


そう   それはほとんど   強制に近いことを


まるでその他の信仰を許さない   宗教の信条のように


医療の力を信じることを   


医者を教祖のように崇めることを


強制されていることに


人々は薄々気が付いている





お産は病気ではないから


本当は自宅でもできるし


自宅での出産は   より楽な姿勢で産むことが出来るから


妊婦は大抵   膝を立てて


動物の出産のように   産むらしい


その方が   赤ちゃんが下に降りる力で


出てきやすいんだって


昔自給自足で暮らしている家族を   テレビで放送していたけど


そこでもお母さんは   確かにそんな風にして産んでいた




宗教が完璧でないのと同じように


医療も完璧でないのに


どうして彼らは


まず信じることを   強要するのだろうか



赤ん坊に印を付けられるくらいなら


歯を抜かれるなら


自宅で産んだ方がまし


医療信仰が崩れ始めたら


貧しい人ほど   自宅出産が増えるだろう


そしてそれは   彼らのためでもある


日本がこれほどまでに   医療を守って


世界一の医療制度を提供するのも


他の国ほど   信仰によって人を縛ることができないから


医療の施しは   宗教のそれとよく似ている



アメリカのように   医療制度が崩れて


貧しい人が医療を受けられなくなれば   


代わりとなる強い信仰心   宗教のネットワークがないこの国は


どこよりも早く   カウントダウンに入るだろう




そういえば   モンサンミッシェルが   東大病院に見える夢を見たっけ


あれは   病院が   海の砦   潜在意識の砦にある


牙城であることを


教えてくれたのだろうか







ラ・ホーヤ サンディエゴ

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