2014年1月29日水曜日

森には秘密が眠っている 3

眠れる森 a sleeping



托卵させられた美奈子の養父は
美奈子を虐待する
恐らく性的虐待にも及んでいて
小さな恋のメロディの
美奈子のボーイフレンドを川に突き落として死なせてしまう

もう幼少期から美奈子の周りは死がつきまとっていて

一家殺害事件の日は
美奈子を守るために
母親が美奈子を精神科医に引き渡す予定の日でもあって
殺害現場に精神科医が来てるんですよ

もちろん事件とは直接関係ないですが
なんでよりによってクリスマスイブの夜に
駆け落ちと引き渡しのために
二人も男がやって来ないといけないのか
この都合のいいタイミングはまるで
間接的に事件を引き起こす要素を暗示していない?


ドラマの中盤では
推理をかき回すためにトリックが仕掛けられていて
その一つが実は美奈子が犯人かも?という
フラッシュバックなんだけど
それは返り血を浴びた自分が包丁を持って
鏡に映っているという記憶で
そのシーンで鏡に映った美奈子がニヤリと笑ってるんですよ

虐待されボーイフレンドを殺された過去もあり
美奈子にも動機があることがわかる

結局12歳の女の子に大人を何人も殺せるはずがないし
ニヤリと笑うシーンはトリックのためのミスリードとして
スルーされるんだけど
でももし、もしですよ?


彼女が心の底で虐待する父とそれを許している家族に対して
深い憎しみの念を持っていたら?

S・キングの『キャリー』じゃないですが
神官の父と旅館の娘だった母――コードの操縦に長ける両親の娘が
生贄の儀式を司る神官とマリアの面影を追う輝一郎を動かした
マリアはキリストに殺害を命じた・・・・


不倫を犯して父の子ではない自分を生み家から追い出そうとする母
バイオリンの才能に優れ両親に愛されロマンスを育くむ姉
自分を虐待しボーイフレンドを殺した父


ドラマでは「才能のある姉に嫉妬したことがない」
「姉と彼氏の文通を取り持ってあげた」
「自分が叶えられなかった駆け落ちの夢を姉が叶えるのを喜んでいた」

美奈子はそんな健気でいい子設定のせいで
美奈子の潜在意識がもしかしてもしかして
一家殺害事件を引き起こしたかもーーーー?
という可能性は見事にスルーされてしまうんだけど
登場人物の中で一番家族に対して
深い嫉妬や憎しみを持っていてもおかしくないのは
美奈子なんですよね・・・




美奈子の動機に比べれば
一家全員を惨殺する輝一郎の動機など弱い弱い
そのせいで輝一郎が犯人なのは説得力がないという
推理好きなファンの指摘もあるんですが
それさえも脚本家の狙いだったのでは・・・?



自分はボーイフレンドを父に殺されたのに
姉は彼氏と駆け落ちして自分の夢を叶えようとしている

母親は自分を捨てようとしている

父親(名前が明仁!)は自分を傷つけボーイフレンドを殺した



こんなブラックな環境を全部笑顔の下で隠せば隠すほど
想いは意識の下深くに沈んでいく・・・





野沢氏はここら辺キレイに描いているんですよ
美奈子は徹頭徹尾マリア様のように献身的で慈悲深いキャラ
じゃあなぜそんなキャラの周囲に子供時代から
大人になっても
殺人事件ばかり起こるんでしょうか


美奈子が家族と共に過ごす最後の日と
姉が駆け落ちをしようとする日
家族全員の最後の夜に血まみれの事件が起きたのは
末っ子の復讐にも見えなくもないんですよね・・・
実父に引き取られたところで
美奈子の心の傷は深いままですから


ひねくれた見方かもしれませんが
実際視聴者が謎解きやトリックに夢中になって
人物たちの想いやメッセージが伝わらなかったことに
野沢氏はとても絶望したらしいです

私は意外と野沢氏が
ドラマの中盤で美奈子自身が犯人かもしれないという
プロットを入れたのは
ただのトリックじゃないと想います
鏡に映った美奈子の笑みもね


もともと眠れる森――潜在意識が
ドラマのテーマでもありますから





ドラマの冒頭と終盤、ラストで
キムタクが眠り姫の話をするシーンがあります

なぜ眠り姫はずっと眠っていたのに
目が覚めた時目の前にいた初対面の王子のプロポーズを
受け入れたのか?



この話題がドラマの中で何度も出てくるのは
この疑問がこのドラマのテーマにもなっているからで

ラストでキムタクがその答えを手紙で伝えます


眠り姫は実は眠っていなかったんじゃないか
眠っていたけれども薄目を開けて
王子のことをずっと見ていたんじゃないか
だから王子が自分を救うために魔女と戦ったりしたのを知っていて
王子と結婚する気になったんじゃないか――



眠り姫のストーリーに
王女が魔女と戦うエピソードはない
この答えは脚本家の創作で
記憶や潜在意識を扱ったこの作品の
脚本家のメッセージでもある


脳のほとんどを占める潜在意識は
眠っている意識だとされている
でも眠り姫のように眠っている私たちの潜在意識は
本当は眠っているんじゃなくて
私たちが意識上で知覚していないだけで
薄目を開けて眠っているように見える眠り姫のように
実は起きているんじゃないか
ちゃんと働いているんじゃないか―――

だから眠りから覚めた眠り姫が王子を受け入れたように
私たちは覚えていなくてもすべてを見ていていて
すべてをどこかで記憶していて
封印が解かれた美奈子のように
事件のときの些細な記憶を想いだしたり
弟だったキムタクに対して懐かしさを覚えたりする

潜在意識は今生を超えた過去世までも覚えていて
だから初めて会った人に特別な縁を感じたりする


だから記憶を消し去ることはできない
歴史を消し去ることはできない
その記憶を抱えて記憶と共に
全てを背負って生きて行かなきゃならない


それがこのドラマのテーマでもあったようです





精神科医が記憶に対して施した術
記憶の封印と記憶の刷り込みは
私たちの潜在意識にも行われていることで

生まれ変わる時過去世の記憶を忘れさせ
作られた歴史を教え込まれる

けれど刷り込まれた記憶に期限があるように
私たちが教えられた歴史や世の中のウソに
自分を誤魔化せなくなったとき
美奈子のように過去がフラッシュバックする
オカルトや古代史に答えを探しに行く

でも真実を知ったとき
隣にいたのは自分から家族を奪った犯罪者だったように
一番近い者が自分の味方だとは限らない


野沢氏は結婚生活に疑問があったのか
結婚3年目から結婚をテーマにした作品を書いていて
「身近な人の悪意」というのをテーマにしている
他の作品でも真犯人は妻だったり

この作品でも犯人は身近な親友や夫で
一番身近にいるからこそ
愛情も憎悪も一番深くなる

今日の味方は明日の敵
日常に潜む悪意は普段は笑顔の下に隠れている
決して表に見せない悪意が積み重なると
一番大きな悲劇を生む――
そんな恐さがある

野沢氏の死はその闇に呑まれたのかもしれない
首吊りに見せかけた殺人とか
妻が犯人だったとか
脚本家の最後と本人の作品の内容が
ところどころでちょっとリンクしていたりする・・・




美奈子がたとえ辛い記憶でも
封印させられずに嘘の記憶を埋め込まれなかったら
重荷を背負った人生でも
第二第三の悲劇は起こらなかった


私たちがみんな過去世を覚えていたら
なんども人生を繰り返すたびに
同じ過ちを繰り返すこともないはず
たとえそれが辛い過去だとしても
覚えていたら同じことは繰り返さない
忘れてしまうから
潜在意識に押しやってしまうから
知らない内になんども現実化されてしまう


この世界の悲劇のほとんどは
私たちが過去世を覚えていないために
同じ悲劇同じ歴史がループしている
過ちを覚えていない私たちと
精神科医のように全てを知っている一部の人間が
この世界の悲劇を生み出していて
常に覚えていない人間たちが
覚えている人間たちの犠牲となっている


私たちが彼らに家畜呼ばわりされるのも
私たちが家畜のように囲われていることも
これから起こることも何も知らずに
彼らのエサとなっていることを
彼らだけが知っているから




イスラエルに隠された66年周期の謎

野沢尚 インタビュー(1999)・『氷の世界』(2)




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